乾いたアスファルトの上に飛び散ったのは、大量の真っ赤な血だった。
「あ……」
背後からの不意打ち。
背中から腹にかけて貫いたものは、悪趣味なデザインをした鎌の刃だった。
「お前、邪魔なのよ。いつもママにべったりして……本当はリトルがしてもらわなきゃいけないのに」
「ぐふっ……」
鎌が引き抜かれると同時に、ゾワボが血を吐きながら倒れる。
誰もいない住宅街の路地。
雲に隠れて月明かりさえ遮られた場所で、ゾワボの呻き声が漏れた。
「あ、ぁ……まい、み…………」
「お前なんか死んじゃえっ!」
うつ伏せになったゾワボに、リトルの鎌が容赦なく叩き付けられた。
頭蓋がかち割られ、血と脳漿が撒き散らされ、手足がビクッと震えた。それが、ゾワボの呆気ない最期だった。
「うふふっ、やった。これでママはリトルのもの。今日からリトルと一緒になれるんだ」
全身が光に包まれ、薄くなっていくゾワボの死体を見つめながら、リトルは可愛らしい少女の顔で笑った。たった今、人を殺したことなど、全く意に介していない様子だった。
瞳に輝くのは未来への希望。自分の求めるものをどうやって手に入れるか、リトルの頭はそのことでいっぱいだった。
「どうしよっかなぁ。まずは、会って、リトルの話を聞いてもらって……って、聞いてもらえないよね? 逃げられたら困るなぁ」
すでに消えてしまったゾワボの死体のあった場所を、靴の裏でグリグリと踏みつけながら、リトルは様々なパターンを頭の中で巡らせた。
正面から話をしに行くのかいいのか。
それとも、まずは手紙のようなものを送り付けるべきなのか。
あるいは、先に捕まえてしまったほうがいいのか。
リトルの出した結論は、もっとも単純な方法だった。
「がッッ!!!」
舞美の喉から濁った声が漏れて、それと同時に右脚が宙を舞った。
体はバランスを崩して床に倒れ込み、衝撃で両手に握っていた短剣を手放してしまった。
「あ、ぐっ……ううっ……」
「ママ、会いに来たよ」
「あな、た……」
舞美の住む屋敷に忍び込んだリトルが取った行動は、まず脚を切断することだった。
気配を殺して背後から近づき、何の躊躇いもなく鎌を横に振り抜いた。
本当は両脚とも切断するつもりだったのだが、攻撃の瞬間に気配を察知され、結果として右脚だけ斬り飛ばすことに成功していた。
「どうして、あなたがここに……ッ!?」
「だって、リトルずっと待ってたんだよ」
「待ってた?」
「ずっとずっと……リトルの番になるのを待ってたんだよ」
「あなた、まだそんなことを……」
「もうあの男はいないから、今度はリトルの番だよね」
「あの男……って、まさか……あなた、ゾワボに何をしたの!?」
「殺しちゃった」
「……ッ!」
「だから、次はリトルの番だよ」
そう言って、リトルが鎌を振り上げる。
躊躇いがない分、行動に移すのは早かった。
「ぎゃっ!!」
舞美の左脚が飛んだ。骨ごと切断されて、真っ赤な血が床を汚した。
「あ、ぐあっ……あああっ……!!」
「これでママは逃げられないよね」
「こ、の……」
激痛に耐えながら、舞美が床を這おうとする。視線の先にあるものは、彼女が長年愛用した短剣だった。
だが、それを手にするのを許すほど、リトルは甘くない。再度鎌を振り上げると、舞美の両腕を肘より上の部分で切断した。
「ぎゃあああぁぁぁッッ!!!!」
「うん、これでママは戦えないし逃げられないね」
「あ、ぐあ、ぁ、あっ……あああぁっ!!」
「あははっ、ママってばゴロゴロして芋虫みたい」
血の海でのた打ち回る舞美を見下ろしながら、リトルは子供のように無邪気に笑った。
同時に、これから始まる二人きりの生活に、心を躍らせていた。
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