街に着いたリトルが向かった先は、全国に幾つものチェーン店を構える寿司屋だった。
「あのね、かなるぼーらって知ってる?」
突然、店員の反応はリトルの期待したものとは違っていた。
カルボナーラは自分の店では取り扱っていないことを教えられ、リトルは落胆するしかなかった。
その姿があまりにも哀れに見えたのか。店員は、近くのファミリーレストランであれば、それがあることを教えてくれた。
「ねぇ、カルボナーラちょうだい!」
ファミリーレストランに入るなり、リトルはそう声をかけた。
「お嬢ちゃん、ひとり? パパかママは一緒じゃないの?」
店員の対応は丁寧だった。リトルの言葉の意味を、単なる注文だと勘違いしていた。
「ママはおうちなの。ママがカルボナーラが好きだから、ママに食べさせてあげたいの」
「んっ、うちは持ち帰りはやってないんだけど……」
「カルボナーラ、ないの?」
「ううん、かるぽらーなはメニューにあるんだけど、家まで持って帰れないのよ」
「持って……帰れない……?」
リトルには意味のわからない言葉だった。理解ができないため、嫌がらせをされているようにしか感じられなかった。
「よくわかんないけど、カルボナーラはあるんでしょ?」
「ええ、メニューにはあるわよ」
「メニュー?」
「ママと一緒に来て注文してくれたら、きっと食べさせてあげられると思うわ」
「ママと……一緒に……」
リトルにとっても、それは理想的な展開だった。舞美と一緒に外出するのは、現在の夢のひとつだった。
だが、それができれば苦労はしない。できないからこそ、リトルはひとりで街まで来て、カルボナーラを探しているのだ。
「ママは来られないから、さっさとカルボナーラ持って来て」
「そう言われても……あのね、そこにいると他のお客様の邪魔になるから、また今度ママと一緒に来てもらえないかしら?」
「ママは来られないって言ってるでしょ」
「そうなの。でも、うちもお持ち帰りはできないの。ごめんなさいね」
「……………………」
リトルには理解できない内容だった。
カルボナーラはあるのに、それを持って帰らせないと言っている。その理由がわからないし、説明もされていない。
そもそも、この時点のリトルには物を買うという概念がないため、仮に持ち帰りができたとしても、金銭を払う必要がある、ということが認識できていなかった。
「そう……どうしても、リトルにカルボナーラを渡さないつもりなんだ。イジワルするつもりなんだ」
「ち、違うのよ。イジワルじゃなくて……」
「ふぅん、そうなんだ」
思い通りにならない。
そんな相手にはどう対処すればいいか、リトルなりの答えを用意するのは簡単だった。
過去に何度も、自分なりの方法で目的を達成してきた。
だから、今回もそのやり方を選択しない理由はなかった。
リトルの唇が、にやりと笑った……。
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