第6話 2/4P

「ママ、お金って働いたら誰でももらえるんだよね?」
  リトルが次の成長を見せたのは、ボランティア活動を開始してから、一年ほどが経過した頃のことだった。
「お金をもらえる仕事をすれば、もらえるとは思うけど……突然どうしたの?」
「アルバイトってあるでしょ。あれ、やってみようかと思って」
「アルバイト? あなたが?」
「うんっ」
  リトルの目は生き生きとしていた。少なくとも冗談を言っている雰囲気ではない。
「一応、目的を聞いておきたいんだけど」
「あのね、リトルね、募金って言うのをしてみようと思うの」
「募金?」
「うん、困った人にお金をあげるの、募金って言うんでしょ?」
「言うけど……何か欲しいものがあるんじゃなくて、募金するためにアルバイトしたいの?」
「うんっ」
  リトルが力強くうなずく。本気で言っているのは、間違いないようだった。
  だが、アルバイトの目的としては、些か動機が特殊すぎる。わざわざアルバイトをしなくとも、募金できる余裕くらいあるため、簡単に了承することはできなかった。
「どこに募金したいの? ある程度の金額なら、ママがしておくわよ?」
「……ママ、前々から思ってたけど、もしかしてうちってお金持ちなの?」
「まだそれに気づいてなかったことに、ママは今すごく驚いてるわ」
「やっぱりそうなんだ。そうじゃないと変だもんね。ママ、働いてないのに生活に困ったことないし。リトル、もっと小さかった頃はママってニートって人なのかと思ってたよ」
「失礼ね……」
「なんでそんなにお金持ってるの?」
「なんでって言われても……昔、稼ぎの良い仕事をしてたから、としか言いようがないんだけど……」
「それでいっぱいお金があるんだ」
「だから、募金ならできるけど……」
「それじゃ意味がないの。リトルが働いたお金を渡したいの」
  リトルがぷぅっと頬を膨らませる。こういう反応は、いつまで経っても子供だった。
「あなたがアルバイトねぇ」
  想像もしていなかった話だった。
  本当に働けるのかと、舞美の胸を大きな不安がよぎる。
  だが、実際のところボランティア活動でも特に問題を起こしたことはないため、舞美が心配し過ぎているだけの可能性も十分に考えられた。
「まあ、正社員として働くわけじゃないし、アルバイトくらいなら……」
「いいのっ!?」
「でも、仕事をするってことは、お金をもらうってことなんだからね? 責任を持ってきっちりとやるのよ?」
「うんっ、わかってる!」
「じゃあ、許可してあげる。しっかりやりなさい」
「やったー!」
  舞美がアルバイトを許可すると、リトルは両手を上げて喜んだ。
  娘はまた一歩成長したのかもしれないと、舞美は口元に笑みを浮かべた。

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