「マリー……」
多くの人々に支えられてきた人生だったが、やはり舞美にとってマリー以上の存在はいない。彼女を失うということは、人生の支柱を失うことと同義だった。
死んでほしくない。
ずっと一緒にいてほしい。
マリーが死の淵にあって尚、舞美はそれを思い続けた。
「ふふっ、昔のあなたはもっと強い人のように感じていたけど、今は子供みたいね」
舞美の頬をくすぐるように指を動かしながら、マリーが優しい笑みを浮かべる。
「私の死を心から悲しんでくれることは、とても嬉しく思うわ。でもね、私が死んだあと、辛い思いをしながら生きてほしくはないの。だから、約束してちょうだい」
「約束?」
「私が死んだあとも、幸せになると……どこまでも強く生き抜いていくと……」
「そんなこと……」
「あなたならできるわ。だって、ずっと見てきたんだもの。あなたの強いところも、弱いところも、優しいところも、怖いところも、私全部見てきたんだもの」
「マリー……」
「今までと同じように、それから先も強く生き抜いていけると、私は信じているわ」
マリーが手を下ろす。
疲れたように吐息を漏らすと、微かに目を細めた。
「これから先も生き抜いて。それ以上のことを、私は望まないわ」
「……うん」
「少し眠るわ。起きたら、また色々なことを話しましょう」
「ん、わかった。おやすみ、マリー」
「おやすみなさい、舞美」
マリーがゆっくりとまぶたを閉じる。
だが、舞美にとっては、マリーが二度と目覚めないのではないかと考えてしまう、恐怖の時間の始まりだった。
自分はいつからこれほど臆病になったのか。
両手に短剣を握り締め、追手と戦っていた頃の自分はどこへ行ってしまったのか。
窓に視線を移した舞美は、不意に遠い日のことを思い出した。
今という物語は、彼を失った瞬間から始まったのかもしれなかった……。
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